儚い記憶
ーー「いらっしゃいませ!」
初めは緊張したものの、慣れっていうのはやっぱりすごい。
お気に入りの赤のロングのドレスに着替えて、髪の毛もコテでしっかりと巻いて、普段は履かないような高いヒールの靴を履く。
そうすると自然と、もう1人の自分になれた気がした。
「吉田さん〜今日も来てくれたんですね」
「"さくら"ちゃんのためならいつだって来るよ。僕は本当に好きだからね…いつになったら遊んでくれるの〜??」
"さくら"というのは私の源氏名。
キャバクラでは身元を隠すために本名ではない名前を使うのが主流だからだ。
「今日もしっかり髪の毛セットしてて、可愛ね。今日終わった後は暇?」
そう言って無遠慮に長い髪の毛の毛先を指先でいじる。
本当は触らないで欲しいけど…まぁいっか。
無理やり口角を上げてにっこりと微笑む。
「今日は予定あるからごめんね?また今度どこかに連れてってほしいなぁ」
その後も吉田さんの同じような話にうんざりとした私は、早く営業閉店時間ならないかな〜、なんて考えつつ天井から吊るされている豪華なシャンデリアを見つめていた。