プロポーズは突然に。
「まぁ…何かあったらすぐ言うんだよ」
「…」
「さ、仕事の続きしよっかな」
私が言葉を返さない時、オーナーは決まってそれ以上会話を続けることはしない。
その代わりに、私の肩をポンポンッと叩いて軽く微笑むと、集計作業へと戻って行った。
「…………怖いんです」
シン、という音が耳に響くほど静かな店内。
その所為か、私の小さな呟きはとても大きなものに形を変えた。
その声にオーナーは作業の手を止め、私に視線を向ける。
「何が怖いの?」
「居心地が…良すぎて」
「え?」
「それが逆に怖くて…」
こんな風に思うなんて夢にも思っていなかった。
不本意な結婚、だったはずなのに。
それなのに…彼と暮らすようになったことで、
温かい居場所を作ってもらったことで、
蓋をしていた過去の記憶が蘇り、私を恐怖に陥れるんだ。