プロポーズは突然に。








───五年前、父が病気で亡くなったとき。



私は一滴も涙を流すことが出来なかった。


すごく悲しかったのに。苦しかったのに。


私が“家族”だと思える人は父だけだったのに。


―――なのに泣けなかった。


泣きかたも忘れてしまった私は、心が凍ったクズみたいな人間なんだと……強く思った。



お葬式は人で溢れるほどたくさんの参列者が詰め掛け、父がどれだけ慕われる人間だったのかをその時初めて知った。


私を表に出したがらなかった父の親族も、流石にこの日だけは…と私を親族として迎えてくれた。


その所為で私を同情の目や、好奇の目で見る人、声を掛けてくれる人なんかもいたけれど…


正直どんな人がいたかなんて全然覚えてない。

それくらい……、全てに絶望していたから。



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