プロポーズは突然に。





私が人生で旅行を経験したのはたった一度だけ。


その一度すら旅行と呼べるのかは分からない、所謂“お泊まり保育”というやつだ。


お泊まり保育は本当に楽しかった。大人になった今でも鮮明に思い出せるほどに。


だからそれ以来…ずっと避けてきたんだ。




「どうした?」




彼がそう問いかけるも言葉を発することができず、黙り込んだまま唇をキュッと噛み締めた。

彼はすごく忙しい人なんだ。

私より早く帰って来た日だって、いつも持って帰った仕事を遅くまでしているし。

だから…





「言いたいことは隠すな。家族なんだから何でも言え」

「…」

「…俺の前では素直になれよ」





…素直になるのはすごく苦手なんだ。


そんな自分、想像しただけで寒気すらする。
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