プロポーズは突然に。
メイクを終え、適当にヘアセットも済ませてリビングに行くと、いつも通りカウンターチェアに座るスーツ姿の彼が視界に入る。
いつも通り自分で用意した朝食を食べている彼の手に視線を落としてみれば、白猫の絵のマグカップをしっかりと握っていた。
あの日買ってもらったマグカップを、どうしても箱から出せない私は胸が苦しくて…
目を逸らしながらカウンターテーブルを通り過ぎた。
……正しくは通り過ぎよう、とした。
だけど彼が私の腕を掴むから、体は自然と後ろに引っ張られる形になってしまう。
振り向き、重なった視線は私に注がれていて…彼はまた射抜くように私を見据えていた。
「…なに」
「朝の挨拶。忘れるなって言っただろ?」
「…おはよう」
そこで漸く掴まれていた腕は離され、彼は私の頭を撫でながら、おはよ、と返した。
いつも通り温かいそのやりとりも、手の温もりも、買ってもらったお揃いのマグカップだって…
全部残酷に思えて苦しかった。