プロポーズは突然に。
閉店後に行われたミーティングと練習会を終え、後片付けを済ませて、腕時計で時間を確認すると22時を過ぎたところだった。
疲労感と共に充実感を感じながらビルの外に出れば、いつも通りそこには見慣れた高級車が停まっている。
そして、運転席に座っている日下さんが私に気付くと柔らかく微笑んでくれた。
「おかえりなさいませ、奥様」
そしてまたいつも通りに後部座席のドアを開けてくれて、こんな私に頭まで下げてくれて。
そして、いつも通り…温かい場所へと連れて帰ってくれるんだ。
「では、また明朝に。おやすみなさいませ」
「毎日ありがとうございます。おやすみなさい」
少し前の私には到底考えられなかったこの生活。
最初は、落ちつかなくて息が詰まるほど苦痛だったこの生活。
今でもまだ慣れないけれど…それでも、少しずつこの生活の全てが“いつも通り”のことになりつつある。
それは幸せなようで…実はそうじゃない。
───だってね、私は知ってるから。