プロポーズは突然に。
リビングの入口に立ち尽くしたまま
涙を流す私が感じたのは、
テレビも付いていない静まり返った空間で
自分が鼻を啜る音。
そして…私の目の前に来て、
何も言わず、何も聞かず、
ただ静かに手を握ってくれる彼の温もり。
鼻をかすめるシトラスの香りに思考回路を奪われ、
その温もりに癒されて…
この感覚がどこか懐かしいような気がして、
余計に涙が溢れた。
───今思えばこの時から、少しずつ記憶の蓋が開きかけていた。