プロポーズは突然に。
「…口紅、ね、あれ…父から貰ったプレゼントと同じものを買って使ってるんだ」
「…うん、」
「友達が新婚旅行で海外に行ったときお願いして何本か買ってきてもらって」
「…うん、」
「馬鹿、だよね。そんなの何の意味もないのに」
本当に私は馬鹿なんだ。
父から最初で最後のプレゼントとして貰った口紅。
唯一の繋がりであるそれを使いきっても、繋がりを失ってしまうのが怖くて…
芽衣子に頼んで買ってきてもらった全く同じもので誤魔化して。
そうやって…ポーチの奥に入っている空っぽのルージュケースを見ては繋がりを感じて、
それでも新しいものを塗る度に、そんなものに依存している自分が怖くなって苦しくなる。