プロポーズは突然に。




心の叫びが音となり口から出た瞬間、彼が包み込むようにふわっと抱きしめてくれたから、また私の視界はぼやけた。


すがりつくように、温もりを求めるように、背中に手を回せば彼の声がソッと上から降ってくる。






「だから…指輪もいらないって言ったのか?」

「怖いんだよ、形に残るものは…失ったときそれに執着して、依存してしまう自分も…」






自分の気持ちに気付いた瞬間から私の頭にあるのは、“幸せな未来”なんかじゃなく、“失ったときの恐怖”ばかりなんだ。


一人でいたときには考えもしなかったことだった。


だって、その時の“いつも通り”は、何をするにも私一人だったから。


失うものなんてもう何もないと思ってた。


それなのに、今の私の“いつも通り”には当たり前のように彼の存在がある。


それが怖くて、怖くて、怖くて。


彼を失ったときの恐怖に怯えながら毎日過ごしてる。


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