プロポーズは突然に。
傷
───思えば私の家庭はどこか変だった。
物心ついた頃から、6畳一間の小さな部屋で母親と二人暮らしをしていて。
だけど、その母親はほとんど家にはいなかった。
この頃の私は、母がどこで何をしているのかなんて知らなかったし、考えることもしなかった。
それに、“お父さん” らしい人は何ヶ月かに一回、ほんの少しの時間会いにくるだけ。
そして、帰り際に決まって、
『ごめんな…』
寂しそうに、辛そうに、そう呟いて私に背中を向けて去っていく。
私にとって、これが“普通の日常”で、“いつも通り”で、別におかしいなんて思ったこともなかった。