プロポーズは突然に。
一生懸命に笑顔を作ってそう言った私に、父はとても悲しい顔をして……
そして、揺らがない瞳で私に嘘をついた。
『お父さんは……桃華と一緒に行きたいと思ってる』
『えっ?』
『桃華も一緒に行こう、な?』
『…』
その頃の私はまだ10歳だったけれど、育った環境の所為か人の表情にとても敏感だった。
『…行かない。学校の友達と離れるの寂しいし』
だから私の答えを聞いた時の、父のホッとしたような表情にもすぐに気が付いてしまったんだ。
『そうか…友達、たくさんいるんだな』
『…うん』
本当は、この時にはもう友達なんて一人もいなかった。
それでも…行くなんて言えるわけもない。
だって父には他に家庭があって…明らかに自分が邪魔者になるのが分かりきっていたから。
『桃華と行きたかったな…』
父の嘘はとても優しくて…とても残酷だった。