プロポーズは突然に。
「桃ちゃん、さっき赤羽さんって聞こえたけど…副社長から電話あったの?」
「あ、はい」
電話を終えた私の元へ駆けてきたのはオーナーだった。
その顔には、“不安”という二文字が書いてあるようにも見える。
「用件は?まさか…契約破棄?」
「いえ、違いますよ。多分…飲みのお誘いだと思います」
プロポーズをされた時、彼と私はまだ何の関わりもない赤の他人だった。
あの時ならいくらでも逃げ道はあったはず。
でも今は…
「はー…良かった。余りにもトントン拍子に話が進んじゃったもんだから、やっぱりこの話はなかったことに…とか言われるんじゃないかと心配でさ」
今は…仕事の取引先のお偉い様なんだ。
お誘いを受ければ断ることはできない。
「飲みに誘われるなんて、桃ちゃん副社長に気に入られたのかな?」
「いえ、そういうのじゃないと思いますよ」
「そうかなぁ?でも昨日も桃ちゃんの顔ずっと見てたし…口説かれたりしてね」
「…それはないです」
「とにかく今後の為にも副社長の心ガシッと掴んできてよ。よろしく頼むよ」
「はい…」
いくら彼と関わりたくないと思っても…
簡単には逃げられないらしい。