プロポーズは突然に。
「…お待たせしました」
「随分早かったな」
職場から程近い場所にある、そのバーに着いたのは電話を切ってから30分後のことだった。
本来なら片付けのあとミーティングもあったのだが、副社長を待たせたら失礼だから早く行くように、とオーナーに命じられ今に至る。
このバーに一歩足を踏み入れると見えるのはブラックライトに包まれたカウンター席。
後ろの棚には様々な種類のお酒が綺麗に並べられ、
ゆったりとしたBGMが響き渡る。
とても雰囲気の良いこのバーに、もう一度行きたいと思ってはいたけどまさかこんな形でここに再び訪れるなんて思いもしなかった。
それもこんなにすごい部屋に通されるなんて…
お店に入った途端に、こちらへどうぞ、と店員さんにカウンター席の奥にあるこの部屋に案内された時は驚いた。
その部屋の扉の向こうはまさに異世界。
幻想的にライトアップされた壁に目を奪われ、
天井の大きなシャンデリアにも目を奪われ、
そんな部屋の中央にある真っ黒な皮張りのソファーに彼は座っていたのだ。
「このバーにVIPルームがあるなんて知らなかったです…」
「そうなのか?」
彼は完全に私とは住む世界が違う人間だ。