プロポーズは突然に。
「まずはシャンパンで乾杯するか」
「…はい」
彼のその一声でバーテンさんがフルート型と呼ばれる縦長でスリムな形のグラスに入ったシャンパンを運んでくる。
スラリと長い彼の指に視線を落としてみれば、ステムを親指と人差し指そして中指で支え、薬指を添えるようにして持っている。
そして、グラスを胸の高さまで持ち上げ私の目を見ながら乾杯、と言った彼は少しだけ微笑んでいた。
慣れないことに戸惑いながら同じように返すと彼は静かにグラスに口を付ける。
住む世界が違えば当然育ちも違うのだろう。
彼の所作は全てが洗練されていてとても美しいと思った。
しかし美しいのは所作だけではない。
容姿端麗、彼ほどこの言葉が似合う人間が他にいるのだろうか。
艶めく漆黒の髪に一番に目が行くのはきっと職業柄。
指通りが良さそうで柔らかそうな髪質だ。
瞳も髪と同じく漆黒で、その瞳が私を鋭く見据えると…気分はまるで籠の中の鳥。