プロポーズは突然に。
「そんな理由でうちと契約を…?」
「理由は他にもある。これも偶然だけど、うちが新たに開発したサロン専用商品を扱ってほしいと思えるような腕のいい美容師が国内にいないか探していた」
「そう…みたいですね、噂で聞きました」
「どんな理由であれ俺は仕事で妥協するような真似はしない。仕事のできない奴は相手にしないと決めている」
自分が気に入らない人間とは一切仕事をしないというのも本当だったんだ。
私の隣で話す彼の瞳は氷のように冷たくて、背筋が凍る思いだった。
「Roadwayと契約したもう一つの理由は藤原オーナーこそが俺の求めていた実力ある美容師だからだ」
「オーナーは本当に素晴らしい人です」
「おまえ、藤原オーナーには随分恩があるみたいだな。日下に色々調べさせた」
「…だったら何なんですか?」
「おまえの返事次第ではすぐにでも契約を白紙に戻す」
「!」
今日受けた電話の問い合わせの殆どが、オーナーへの取材依頼だった。
元々カリスマ美容師と謳われているだけあってこれまで何度も取材を受けているのに、今回の契約で更にオーナーへの関心が高まっているようだ。
それも当然かもしれない。
折角サロン専用商品を開発したのに、それを扱ってほしいと思える技術者に巡り会えないと漏らしていたらしい彼が初めて認めた人物がオーナーなのだから。
もしもここで今、契約が白紙になってデマや変な噂が流れでもしたら…
オーナーの信用問題に関わる。