プロポーズは突然に。
婚姻届の重み
彼の言いなりになるべきではないし、そんな必要もない。
私の人生を彼に決められる筋合いもない。
暫く続いた沈黙の後、私が出した答えだった。
やっぱり…オーナーに事情を話そう。
契約が白紙になって、デマや変な噂が流れてもオーナーはそれを吹き飛ばすほどの実力がある人だ。
だからきっと大丈夫。
「やっぱり結婚はできません。契約のことは私がオーナーに話します」
「ふーん…」
私の隣で優雅にワイングラスを揺らす彼の所作は、やはり美しくてこんな状況なのに目を離すことができない。
「最高の腕を持つ美容師が最高の商材を使い、お客様に最高の美しさを提供する。まさに“Offering beauty”、あのビルに足を運ぶお客様に相応しいサービスを提供できると思うけどおまえはどう思う?」
「それは…その通りだと思います」
「おまえが俺と結婚すること以外にデメリットは一つもないんだ。お客様が増えて売上げも伸びればオーナーの評価も上がる。オーナーへの恩返しだと思えば簡単なことだろ?」