プロポーズは突然に。
II.
何色に染まるか
身支度を済ませ、エレベーターで下へと降りる。
職場まで徒歩10分とはいえ、最上階に住んでいると下に降りるだけで時間がかかる。
明日からはもう少し早く出ないと…
一階に着きエレベーターから降りると、広々としたエントランスホールを横目に駆け足で進む。
二重のオートロックになっている正面玄関を抜けると、見覚えのある高級車が停まっているのに気付いた。
運転席に座っていた人物は私に気が付くと柔らかく微笑み、すぐに車から降りてくる。
「おはようございます、奥様。どうぞ」
「日下さん…おはようございます」
日下さんは昨日と同じように私を奥様と呼び、後部座席のドアを開けてくれる。
「あの…私これから仕事があるんですけど」
「はい、存じております。聡様より奥様の送迎をするようにと仰せつかりました」
「そんな…すぐ近くなので歩きます」
「それは困ります。さぁ、お乗りください」
…私が断ると日下さんが怒られたりするのだろうか。
それは気の毒だし…今日はお言葉に甘えさせてもらおう。
「…すみません、お願いします」
「はい、お任せください」
こんなにすぐ近くの距離をわざわざ車で…
お金持ちって贅沢なことをする。