プロポーズは突然に。





「おかえりなさいませ、奥様。どうぞ」

「…ありがとうございます」



時刻は18時45分。


朝と同じように偉くも何ともない、普通の人間の私の為に日下さんが高級車の後部座席のドアを開け、頭を下げる。


異様なこの光景に、ビルに出入りするセレブは勿論、帰宅中の学生、サラリーマン等、様々な人が足を止める。


再び好奇の目に晒されることとなった私は、その視線から逃れるようにそそくさと車に乗り込んだ。



「失礼します…」



なんて小さく呟きながらシートに腰掛ける。


隣のシートに座っていた彼は、一度私の顔を見たもののすぐに顔を前に戻す。


どうやら車内でも仕事をしているようで、車載用テーブルに置かれたノートパソコンを右手で操作しながら左手に持った書類を確認している。


そして肩と耳の間にはスマートフォンを挟み、通話をしながら仕事の指示を出していた。


凄い…彼の動きはスマートで無駄が一つもない。


その洗練された仕事ぶりは忙しなさを感じさせないほどだ。




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