プロポーズは突然に。
「分かりやすいことをする」
「え?」
「バーで話した日もリップだったな。それで俺を拒絶したつもりか?」
「…」
図星だった。
あの契約が結ばれた次の日から私はロッソ・ピウマの口紅を塗るのを止めた。
彼と違い、何の権力も持っていない私なりの精一杯の拒絶手段がそれだった。
「俺の周りにいる女は海外で買ってきたうちの商品を使って媚びるようにそれをアピールする奴ばかりだ」
「…私はそういうの嫌いなので」
「やっぱりおまえは極上の女だな」
口角を上げた彼に顎を持ち上げられ、唇にリップブラシを宛がわれる。
何十色もあるカラーの中から彼が選んだのは私が愛用していたカラーで…
全てを見透かされているような気分になり拒絶するのも忘れ、その間にも唇は色付いていく。
「ブルーベース肌向けのローズカラー。おまえのような凛とした女によく似合う」
「…、っ」