プロポーズは突然に。
「あの…」
「あぁ、失礼。私はキミを知っているんだよ。会ったこともある」
「え?」
予想もしていなかったその言葉に耳を疑った。
私がロッソ・ピウマの社長と…?
一体いつ、どこで……
「キミのお父上、幹本 秀夫氏とは深い繋がりがあってね」
「父と…ですか?」
「同じ美容学校だったんだ。志の高い幹本くんとは一緒に仕事をしたこともある」
私が全然知らない話だった。
父とそんな話、したこともないから。
「きっとお父上も、この結婚を喜んでくれてるぞ」
「…」
「幹本くんは本当にキミを愛していたんだよ」
本当にそうなのだろうか。
私には父の記憶が少なすぎて分からない。
思い出せるのは、父の背中と口癖、雑誌の中でしか見ることができない笑顔。
『ごめんな、桃華…』
そして最期のあの瞬間、それだけ。