プロポーズは突然に。
私の目の前に置かれたワイングラスが赤く染まっていく。
器用にボトルの底だけを持ってワインを注ぐ様はまるでバーテンダーのようだ。
こんなちょっとした所作ですら彼は綺麗に見せてしまう。
「あれから5年か」
「…はい」
「そうか。辛かったな」
「いえ、そんなことはないです」
「強がらなくていい」
「え?」
「もうおまえは一人じゃない」
…どうしてこの人は私の心にズカズカと土足で入り込もうとしているんだろう。
父親同士が繋がりがあったって私達には何の関係もないのに。
「乾杯」
そう言って微笑みながらグラスを上げる彼に、ギリギリのところで同じように返すことができた。
…絶対泣いたりしない。