秘密の恋は１年後

春の波

　三月某日。
　今日も、総勢十名の人事部はとても穏やかな空気に包まれている。

　隣席の先輩は、コンビニで買ってきたという宇治抹茶チョコレートをつまみながら仕事をし、部長は最近産まれたお子さんの写真をデスクに飾って幸せそうだ。


「部長、先週ご依頼いただいていたデータができました。ご確認をお願いいたします」
「えっ!?　もう？　麻生さんは仕事が早くて助かります。ありがとう」

　部長は小さなことでも褒めてくれる、いい上司だ。必然的に、人事部内は常に平和を保たれている。

　私が勤務している【Fluffy ALPA株式会社（フラッフィーアルパ）】は、業界でも三本の指に入る不動産会社。親会社が所有する汐留の本社ビル内にあって、法人や個人向けの不動産業はもちろんのこと、親会社のデベロッパー業にも携わっている。

　役員室は三十階、私たち人事部はその一階下の二十九階。
　井浦社長もとても紳士的だし、その他の役員の悪い噂も立たず、離職率が業界で最も低いのも自慢だ。世間はハラスメント探しに躍起になる企業もあるらしいけれど、私は入社以来聞いたことがない。