秘密の恋は1年後
「でも、あの……その……」
「ん? なに?」
「……嫌いになったわけじゃないですよ?」
好きだって言えたらいいのに、こんな言い方しかできなくて歯がゆい。
だけど、彼は一瞬にして曇っていた表情を、意地悪な微笑みに変えた。
「わかってるよ」
自信たっぷりで返す彼に、またしても胸の奥をきゅんとさせずにいられなかった。
互いに喉の奥に詰まらせていた塊を吐きだせたからか、さっきまでのなんとも言い難い気まずい空気は跡形もなく消えてなくなった。
「腹減ったなぁ」
ソファに隣り合って座っていると、彼が高級そうな腕時計を見て呟く。
「そうですね、お昼ですもんね。お食事はいつもどうされてるんですか?」
「兄貴の家にいれば結衣ちゃんのご飯を食べるし、外にいれば外食だし、家にいたらピザとか寿司を出前したり、結構適当に済ませてるけど」
思い出したように、彼は傍らのラックからチラシを出した。どうやら自炊という選択肢は、彼の頭に元からないようだ。