秘密の恋は1年後
身支度を済ませた彼と部屋を出て、エレベーターで地下駐車場まで下り、愛車の助手席に乗る。
待ち合わせの時は、緊張と予期せぬキスを迫られたせいで気づかなかったけれど、彼の愛車はいわゆる高級外車だ。ブランド物とは縁がない質素な生活をしている私でも、アウディくらいは知っている。
でも、高級車と知ったら思わず背筋を伸ばし、膝をきっちりと揃えて正面を向いてしまった。
「……もっと楽にしてくれる? 運転ミスりそう」
「そう言われましても」
安全運転を誓ってくれなくては困る。
彼はシートベルトを締め、適当に音楽を選んでからハンドルに大きな手を乗せた。
「まさか、外車に乗ったのも初めてで、緊張するなんて言うなよ?」
「も、ってどういう意味ですか?」
「俺が初めての男だったから」
「そ、そういうことは言わなくていいですっ!!」
恥ずかしげもなく、数時間前の出来事を思い出させた彼は、小さく肩を揺らして笑っている。
そして、私を流し見て、いたずらに微笑んでから車を出した。