秘密の恋は1年後
社屋を出て、近くにある書店に寄るために駅とは逆方向へ。仕事が少し落ち着いたら、新刊を買いに行こうと思っていたし、週末だからゆっくり読みふける時間もたっぷりある。
不意に手にしていた携帯が震えたので、足を止めて確認すると、尚斗さんからの着信だ。
「お疲れ様です」
《今からどこに行くんだ?》
「えっ!?」
唐突な問いかけに何気なく周りを見渡すと、社屋の入口近くに停めた車の横に立つ彼を見つけた。
「ど、どうしたんですか!?」
数メートルしか離れていないのに電話越しで話すのが不思議で、携帯を持った手を下ろして話しかける。
だけど、彼は耳に当てたままの携帯を指差したので、私も同じように戻した。
《こうして話していれば、特に不思議に思われることはないだろうからこのままで》
「あ、なるほど!」
極秘の社内恋愛は、こういう時も気が抜けないということか。
むしろ、社外でふたりで話しているのを見られた方が、噂の種になりかねないんだろうな。
恋愛経験の浅い私にとって、彼の細かな配慮で気づかされることが多くなりそうだ。