秘密の恋は1年後
《ふふっ、お前、見すぎ。バレるぞ》
「あっ、すみません!」
電話越しの彼の声は、とても冷静。私は、福岡に彼が出張していた夜以来の会話にドキドキして仕方がないのに、車の横に立つ佇まいからも、緊張なんて微塵も感じられない。
スラックスのポケットに片手を入れ、社屋を見上げながら話しているその横顔に、私への想いを探してしまった。
《それで、これからどこに?》
「この通りの先にある本屋さんに行こうと思ってます」
《あぁ、例のエロい本、買うの?》
「……そ、そうですけどっ!?」
エロい本とは失礼な。確かにちょっとセクシーな描写はあるけど、それに至るまでのドキドキやハラハラは、現実世界では得難いものがあるんです!
趣味を笑われたようで思わずムッとして言い返すと、おもむろに視線を流して見つめられて息をのんだ。
《面白そうだからつきあってやるよ》
そう言うと、彼は一方的に終話して車に乗り込み、先に書店の方へと走り去ってしまった。