秘密の恋は1年後
小走りで書店に向かう。信号をひとつ渡った区画のビルに入っている大型書店のチェーン店は、仕事帰りのビジネスマンの姿が多い。
彼と合流しようと探していると、ビジネス書の陳列棚を眺めているのを見つけた。
「尚斗さん」
「……早く買ってこい」
厚みのある単行本を片手に立つ彼の姿が格好よくて、見惚れてしまいそうになる。
「はーやーくー」
「は、はいっ!」
目を細めて睨んできた彼に急かされるように、目当てのコーナーへ向かう。
こっそり振り返ったら、尚斗さんの横顔がほんの少し微笑んでいるようにも見えた。
「――三千六百円です。カバーはおかけしますか?」
「お願いします」
無事、狙っていた新刊を手に入れ、今夜からの週末が楽しみになる。
天気予報では梅雨空になる可能性もあると言っていたけど、自宅で読書なら天候に左右されることはない。
書店のビニール袋に入れてもらい、ビジネス書を読んで待っているであろう彼の元へ戻ろうと踵を返した。