秘密の恋は1年後
「だいたい、この前はどうして帰ったの?」
「そ、それは……」
尚斗さんに非があるわけではないのに、理由も告げずに同棲を先延ばしにしてしまったことを、やっぱり彼は気にしていた。それも、私が思っていたよりずっと真剣に考えてくれていたと、その声色で分かる。
「料理を習うためだとしても、兄貴の家には行く約束してるのに、俺のところには来たくないってこと?」
「違います!」
すぐに反論した私に、彼はゆっくりとソファから腰を上げて近付いてきた。
長身から投げられる視線はとても鋭くて、会社で見せるにこやかさは微塵も感じられない。
愛斗さんには話した心のうちを、彼にも打ち明けてみようと思った。
そうじゃないと拗れてしまいそうだし、すべては私の自信のなさが招いていることだからだ。
「あ、あの、実は」
「ん?」
どこから話そうか考える私を、じわじわと歩を進める彼がダイニングテーブルに追いやる。
腰のあたりが角にあたり、彼の圧で自然と背中が反り返った。
見上げた彼の顔は不機嫌全開だけど、ここできちんと話さなくてはと、お腹に力を入れた。