秘密の恋は1年後

「これか?」
「あ、ありがとうございます」
「こういうことは頼みなさい」
「はい」

 バスケットを渡されると、彼が私の頭にぽんと手のひらを置いた。
 なにげない優しさにきゅんとしていると、彼は不思議そうに見つめて小さく笑った。


 発色のいいカナリア色のシャツワンピースに着替え、カンカン帽を被って、小ぶりな白いバッグを手に家を出た。
 尚斗さんは左手首をさりげなく高級腕時計で飾り、ジャガードデザインの黒いカットソーと細身のブルーデニム。腰にはグレーのジップアップパーカを巻いている。シンプルな服装は長い脚が一層際立ち、無造作に捲った袖から見える腕は男らしい。


「まひる、これ持っててくれる?」

 バスケットを持ってくれている彼が携帯を渡してきたので、バッグにしまう。
 マンションを出て、徒歩十分圏内の公園へ向かう間、歩幅の広い彼は時々私の様子を気にかけてくれて、赤信号に差し掛かったところで手を繋いでくれた。

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