秘密の恋は1年後

「冷たすぎますっ」
「ごめん、ごめん」

 じんわりと私の体温が彼の手のひらに移っていく。頬を包んだ両手はそのままに、尚斗さんはただいまのキスをくれた。


「今年も一年、お疲れ様」
「お疲れ様でした」

 冬の匂いがするチャコールグレーのコート越しに、彼の温もりを探す。
 凛とした香水の匂いを感じて、私もホッと息をついた。


 いつものように書斎に入ってからリビングに来た彼は、小さな紙袋を持っている。


「ちょっとおいで」
「はい」

 キッチンの棚からタンブラーを出して、お酒の準備をしていた私を呼び寄せた彼は、先にソファに座った。

 スーツベストを着たままの彼は、私が腰かけてからも、なかなか話しだそうとせず、ただただ私を見つめてくるばかり。


「尚斗さん?」
「うん、ちょっと待って。今、話すから」
「はい……」

 なんだろう。悪い話じゃないよね?
 年末に暗い話題なんて嫌だし、尚斗さんの緊張した表情のせいで、私まで姿勢を正して呼吸を整えて待った。

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