秘密の恋は1年後

「おはようございます。麻生さん、いらっしゃいますか?」

 尚斗さんが依頼していた書類を手に、人事部にやってきた。
 今日も爽やかで、ひと際輝いて見える私の旦那様は、会社で見せる万人受けのいい優しい雰囲気を醸している。

 四年ほど前、その姿にひと目ぼれした日が懐かしい。
 あの頃は、もっとかわいくて、意地悪で、色気があって……そんな彼に、毎日惚れ直すような幸せな結婚生活が待っているなんて、想像もできなかったんだもの。


「おはようございます」

 自席を離れ、部の入口に設けられた簡易的なカウンターを挟んで向かい合う。
 渡されたクリアファイルには、年金や健康保険などの結婚に伴う申請書も含まれている。


「間違いないですか?」
「はい。確かにお預かりいたします。ご多忙中にありがとうございました」

 私の返事に、にこっと微笑んでくれた彼は、少しだけ腰を折っていじわるな顔をした。


「それでは、これからもずっとよろしくお願いしますね。奥さん」


                ―fin―

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