秘密の恋は1年後
「どうかしましたか?」
「あっ、いえ。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう。麻生さんも頑張ってください」
目尻を下げた優しい微笑みに、胸の奥が聞いたこともない大音量できゅんと音を立てる。
颯爽と人事部を出て行く彼に会釈をしてから、自席に戻った。
社内で見かけたとしても話しかける勇気や話題もなく、やっと接点が持てたのにあっという間に終わってしまった。でも、副社長が私を名前で呼んでくれただけで嬉しい。
やっぱり、すごく格好よかった。
格好いいなんて言葉では片付けられないほどの魅力にあてられ、ドキドキする胸の奥がずっとうるさい。
私の名前を呼んでくれた、ちょっと低くて耳触りのいい彼の声が、ずっと頭の中に残っている。
井浦社長に憧れる社員も多いけれど、私は入社式で見かけた時からずっと千堂副社長に夢中。
でも、立場のある彼が振り向いてくれることはないということもよくわかっていて……。
片想いの社内恋愛ができるだけでも幸せだと、諦め半分で想い続けている。