秘密の恋は1年後
「おっ、ポテサラだ」
「俺がリクエストしたんだ。今日は蕎麦の実を好みで一緒に食べるんだって」
「へぇ、凝ってるなぁ。美味しそうだ」
愛斗さんも好物なのか、食卓に並んだそれに目を輝かせている。
「愛斗さん」
「ん?」
「ビールがいいですか?」
「そうだな」
三人の様子を眺めていると、愛斗さんが私を見てやわらかく微笑んだ。
「麻生さん、うちの妻の料理は美味しいので、遠慮なく食べてくださいね。特にポテトサラダは自慢の一品なんです」
「そうなんですね! では、遠慮なくいただきます」
各々グラスを持ち、乾杯をした。
なんだか不思議な気分だ。
私の趣味を秘密にしてもらう代わりに、食事に付き合うよう命じられただけなのに、社長のお兄さん夫婦と食卓を囲んでいるなんて。
社長の紹介によると、お兄さんの愛斗さんは三十四歳で、国内最大手のインテリアメーカーである【Prima lunece(プリマルネーチェ)】の取締役副社長として勤務されているそうだ。
そして、当時部長だった愛斗さんと部下の結衣さんは極秘の社内恋愛の末、ご結婚されたらしい。