秘密の恋は1年後

「ごめんなさい、急に来ていただいて」
「いえ、こちらこそ突然すみません」

 二度目の千堂家も、とても綺麗に片付けられている。
 まだお子さんはおらず、愛斗さんとふたりで仲睦まじく暮らしているようだけど、彼女はきっと良妻賢母タイプだと思う。

 玄関先で軽く話して、お土産を受け取って帰るつもりでいたのに、誘いを断れずにお茶をいただくことになった。


「これお土産です。大したものではないんですけど」

 黒い紙袋を渡され、中を覗くと予想を超える品数が入っている。


「こんなにたくさんですか?」
「燕の巣のシートパックが三箱と人気店のクッキーです。すごく美味しいので、麻生さんにも食べてもらいたかったんです」

 艶々の頬を持ち上げて微笑む彼女を見ていたら、シートパックを試してみたくなった。
 結衣さんのようにかわいらしく、綺麗になれたら、社長も本気になってくれるかなぁ。

 こうして千堂家にお邪魔できている現実が、私を諦めの悪い女にする。

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