秘密の恋は1年後
今日も定時で仕事を終わらせ、夕方の外気に触れた。自宅がある吉祥寺までは、新橋駅から一時間もあれば余裕で着く。
月曜だから早めに帰ってゆっくりしようと思っていたけれど、親会社の【井浦リアルエステート】で専務秘書として働く実姉の美桜(みお)に食事に誘われ、待ち合わせの店がある代々木界隈に向かっている。
百六十センチの平均的な身長は、新橋駅へ向かう間も特に目立つことはない。
白いシャツと膝丈のフレアスカートを着ているOLは他にもいるし、顔立ちも自慢できるところはない。時々褒めてもらえるのは長いまつげと両頬のえくぼくらいだ。
肩甲骨のあたりまであるアッシュブラウンの髪が、風になびく。
一瞬、視界が遮られてしまい、通りすがりの男性とぶつかってしまったので、すぐに謝った。
もし、私がとびきり美人で人目を引くようなタイプだったら、こんな瞬間だって恋のチャンスに繋がったりするんだろうなぁ。
ふと、千堂副社長を思い出す。
彼と手を繋いで歩いていたら守ってくれたかもしれないなんて、想像の中の私生活だけは充実しているけれど、現実はそうは上手くいかないものだ。