秘密の恋は1年後

 表参道で電車を乗り継ぎ、代々木上原駅で降りた。
 五分も歩けば、姉が行きつけにしている創作フレンチバルの控えめな看板が見える。


「こんばんは」
「まひるちゃん、いらっしゃい」
「お疲れさま。ごめんね、急に誘って」

 店員さんが迎えてくれると同時に、先に来ていた姉がカウンター席から声をかけてきた。
 私も何度か来たことのあるこのお店は、外観こそ洒落ているけれど、店員さんも内装も気を張らずにいられる穏やかさがある。
 カウンターの向こうにはキープボトルがたくさん並び、テーブル席もすぐに埋まっていく。このあたりに住む人たちに愛されているこの店は、いつだって満席になるのが早い。


「どうしたの? なにかあったの?」
「来期から御社の社長がうちにくるから、その前に話しておこうと思って」

 なにも言わなくても、いつも通り国産のレモンビールが出された。乾杯して、グラスに口を付ける。すっきりとした味わいとフルーティーなレモンの酸味が私好みで、普通の生ビールよりも好きだ。

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