クールな社長の耽溺ジェラシー


その後、その美術館が照明普及会の賞を獲ったことで設計者が正司さんであることがわかり、新卒で閂建設の入社試験を受けた。

だけど落ちてしまい、結局ほかの建設会社に就職。それでもやっぱり正司さんの元で一緒に仕事がしたいと思い、数年経験を積んで中途採用で入社した。

正司さんに追いつく……なんてまだまださきの話。頑張るしかない。

ひそかに気合いを入れていると、隣を歩いていた広瀬さんがふと足を止めた。

「あ、ここ……シートがなくなってる」

見上げたさきはずっと工事中で防音シートがかかっていた駅近くの商業施設だった。

街のシンボルともいえるスタジアムの完成に、日にちを合わせてきたらしい。どんなものができるのか、前から気になっていた。

メディアで報道されていた建設前の予定図では昼間のポップな色合いが強く印象に残っている。それが夜だとどうなるのか。

広瀬さんと同じように目を向けると、無意識に口が開いた。

真っ暗なビルに多彩な光が浮かんでいる。予定図からは想像もつかない夜の顔に、広瀬さんとふたりで目を凝らした。

「……すごい。あれって円柱じゃなくて板ですよね?」

カラフルな板に中央だけ絶妙な加減でライトが当てられ、平面の板がクリア素材の円柱みたいに見えるという配光が施されている。

「うん、そうみたい。へぇ、真ん中にだけきれいに当てたらあんな感じになるのかー」
「昼間は太陽が当たってカラフルな平面が強調されるんでしょうか。面白いなぁ……誰が照明の設計したんでしょうね」

報道を観たときは発表されていなかったけれど、同じ業界にいるし知っている人もいるかもしれない。それこそ正司さんくらいの人ともなると他社とも関わりがあるし。

「正司さん、この設計って……」

話しかけようと正司さんのほうを見ると、建物を睨みつけるように見上げていた。声をかけるのもためらうほどの表情に、続く言葉が出てこなかった。


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