クールな社長の耽溺ジェラシー
「あ、それと……“新野さん”と敬語、やめてもらえると嬉しい」
「え……」
ということは名前で呼んでタメ口。付き合っている実感もまだしっかりと持てていないのに、余計に緊張して喋れなくなってしまいそうだ。
「もう少し時間が経ってからじゃ、ダメですか? まだ一緒の仕事もありますし。敬語じゃなくなったら、喋れなくなりそうです」
せっかくふたりの時間ができても、ギクシャクしてあまり話ができなくなったらつまらない。遠慮がちにお願いすると、新野さんは快くうなずいてくれた。
「わかった。じゃあ、まちなかライトアップの企画が終わるあたりでどうだ? それなら……俺と正司さんの結果もわかってる」
「はい、それでお願いします」
そのころには私と新野さんの距離も縮まっているだろう。そうなれば、少しは緊張せずに名前を呼べるかもしれない。
「……もう、そろそろまずいかな」
新野さんが車のバックミラーを見てつぶやく。道路の脇に停めていたので、うしろから車が来ていて、邪魔そうに避けて通り過ぎていった。
「それじゃ、送ってくれてありがとうございました。……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
挨拶をしたのに、名残惜しげに私のうなじに手を伸ばすと、引き寄せて唇を塞いだ。
いつも真顔だし、淡々としているのに、こういうときは情熱的でどうしていいかいまだにわからない。
車から降りると、中から新野さんが小さく微笑んでがアクセルを踏む。テールランプがどんどん小さくなり、角を曲がって消えるまで見送った。
立ち尽くしたまま無意識に唇に触れる。
キスされたのかと思い返していると、別れたばかりなのにもう会いたくなって、新野さんに恋しているんだとあらためて気づいた。