クールな社長の耽溺ジェラシー


まちなかライトアップの企画の点灯式が近づき、式典に向けての最終的な打ち合わせがはじまった。

閂建設の会議室に私や新野さんたちが集まり、クライアントを交えて段取りなどを確認する。

「閂社長から挨拶をいただき、あとは新野社長からもひと言いただけますと……」
「わかった」

新野さんは端的に答える。あまり気は進んでなさそうだったけど、形式的に必要なことだと判断したらしい。

「みなさんからご挨拶をいただいたあと、ゲストに点灯のスイッチを押していただきます」

クライアントの説明に広瀬さんがパッと顔を輝かせる。

「ゲストって、前に聞いたあの女優ですよね? 俺、超好きなんだー。ショートカット、めっちゃ似合う。サインもらえますかね?」
「頼めそうでしたら、お願いしてみますよ」
「やったー!」

広瀬さんの喜びが会議室中にこだまする。正司さんはあきれた苦笑いを浮かべ、新野さんは興味なさそうに真顔で資料を読んでいた。

人気の女優を呼ぶほど大々的なものとなったまちなかライトアップのイベント。近づくたびに私のわくわくも増していく。

落ち着いて資料を読んでいるけど、新野さんも同じような気持ちだろうか。見つめると、ふと視線をあげた新野さんと目が合った。

一瞬だけ笑みを見せてくれると、すぐにクライアントと話をはじめる。

たった一瞬。

それでも私の心を鷲掴みにするには充分だった。

やがて打ち合わせが終わると、クライアントと新野さんはさきに部屋を出て、橋のライトアップの打ち合わせがある正司さんと広瀬さんはそちらへ向かった。

たいした片づけもないのでひとりでテーブルを並べ直し、モニターの電源などを確認していると、ドアがノックされた。

「はい」

誰か忘れ物でもしたのだろうか。そう思って返事をすると、現れたのは新野さんだった。


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