クールな社長の耽溺ジェラシー


「新野さん……どうしたんですか?」
「ひとりで片づけするって、帰り際に話してるのが聞こえたから。手伝うよ」
「あ、もう終わっちゃって……ありがとうございます」
「なんだ、遅かったか。悪かったな」

整然とした会議室を見渡し、ゆっくりと私に近づいてくる。

「早いな、もうライトアップがはじまる」
「はい。夏が終わって、秋になって……もうすぐ冬が来ます」

新野さんと出会って、恋をして、想いを通じ合わせた。あとから振り返ると、この数か月は奇跡みたいな日々だったと感じるだろう。

「橋、順調に設計できてる」
「えっ、本当ですか!? よかった……」

会社にいるという意識から慌てて口を押さえた。私は閂建設の人間で、正司さんの部下でもあるのに。

「小夏に俺の照明が好きだって言ってもらえたら、肩の力が抜けた。それで、いいのができたよ」
「それを言いに……わざわざ戻って来てくれたんですか?」
「まぁ……それもあるけど、単純にふたりきりになりたかったから」

私の手を取り、その存在をたしかめるように握られる。

「この前ずっと一緒にいたのに、もう小夏が足りない」
「新野さん……」

愛しさを詰め込んだ視線に心を揺さぶられる。あともう少し、この幸せな時間を味わいたい……そう思っていたけれど、手を離されてしまった。

「これ以上はやめておく。……また我慢の限界越えるわけにいかいしな」

そんなもの、越えてしまってもいいのに。と頭の片隅で思っている自分に気づいて驚いた。

誰かを好きになると、大胆なことも平気でできる。私も少し我慢を覚えたほうがいいのかもしれない。

「金曜の夜、空いてたら飯に行かないか?」
「はい、大丈夫です」
「なら、約束」

おでこにキスをすると、新野さんは颯爽と会議室から出て行った。

「が、我慢するんじゃなかったの……?」

あまりにもスマートにおでこへキスをされ、全身の力が抜けてその場にへたりこむ。

なんだろう、私の経験値が足りなさすぎ?

新野さんから与えられる行為に、まだしばらく慣れそうになかった。


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