クールな社長の耽溺ジェラシー
「あ、あの……正司、さん?」
恐る恐る呼びかけると、私に気づいた正司さんはすぐにいつものさっぱりとした笑顔になった。
「すまない、管理から電話みたいだ。さきに車に戻ってるから、思う存分眺めてからおいで」
取り繕うように胸ポケットからスマホを取りだすと、その場を去っていく。
「えっ、正司さ……」
電話というわりにはスマホをポケットにしまい直していた。電話なんてウソで、ただここから離れたかったんじゃないかと勘ぐってしまう。
「いいじゃん、もうちょっと見ようよ」
去っていく正司さんを呆然と見送っていた私に、広瀬さんが声をかけてくれる。
「……そう、ですね」
誘いにうなずくと、もう少しだけ建物を眺めることにした。
「こなっちゃんの言う通り、街を歩くのいいな。こういう新しい技法に出会える」
「楽しいですよね。技法はもちろんですけど、この照明を設計した人はどんな人なんだろうって考えるのも楽しいです」
正司さんのことは気がかりだったけれど、今は目の前の建物に夢中になり、設計者に想像を巡らせる。ユニークな人だろうか。それとも繊細な人だろうか。
「私だったら窓枠を照らすくらいしか思いつかないなぁ」
「それは昔の俺だな」
「えっ?」
聞き覚えのある低く落ち着いた声がして振り返ると――。
「に、新野さん……!」
くっきりとした二重に深く黒い瞳が、私を見下ろしていた。Tシャツにジャケットを羽織り、タイトなパンツというシンプルな格好が彼の魅力を引き立てている。
「この近くが現場か?」
「そこのスタジアムですよ。さっき現場確認が終わって」
広瀬さんは偶然の再会に人懐っこい笑みを浮かべた。
「へぇ、小夏も担当だったんだな」
ちらりと向けられた視線にこの前のことを思い出して、緊張してしまう。