クールな社長の耽溺ジェラシー
「は、はい。新野さんはここが現場ですか?」
「ああ、照明だけな。立地も建物の設計もいいし、やりがいあった」
私からビルへ視線を移した新野さんは満足げに口角をあげていた。達成感に満ちた顔はかっこよくて、思わず見つめてしまう。もう緊張なんてどこかへいってしまった。
「いいですね」
「いい? なにが?」
「とても満足そうにされているので。いつか私も、なにかをやりとげて新野さんみたいに笑いたいです」
だからこそ、今を頑張っている。憧れと羨望の入り混じった気持ちを伝えると、新野さんに苦笑されてしまった。
「やっぱり熱心だな。外見と違う」
「が、外見!?」
「こなっちゃん、見た目はかわいい女の子なんですけどね。中身は男顔負けというか」
広瀬さんまで参戦して私をからかってくる。
なにそれ。もういっそ色気を出そうと伸ばしていた髪を切って、ボーイッシュに振り切ったほうがいいんだろうか。
「いいな、閂に飽きたら俺の事務所に来たらいい。俺と似た設計するみたいだし、ちょうどいい」
さらっとスカウトされたけれど、たぶんこれは冗談だろう。
「似ているなんてとんでもないです。私はただ新野さんの設計が好きなだけで」
「俺の?」
新野さんは不思議そうに首をかしげ、わずかに眉をしかめる。
彼を優れた照明デザイナーだと称える人は多いし、本人も人から憧れの眼差しで見られることに慣れていると思っていた。
なのに、どうやら自分の評価に気づいていないらしい。というか、興味がないのだろうか。
「はい、すごく好きです。新野さんの作品をたくさん見て、研究しましたから」
「そうか」
たったひと言なのに、すごく嬉しそうにしているのが微笑から伝わってきた。
心の中で、でもやっぱり私の一番の憧れは正司さん……なんて思ってしまったことを、少し申し訳なく思った。
なんとなく目を逸らすと、新野さんが私に手を伸ばしてきた。