クールな社長の耽溺ジェラシー
「そういえば、さっきまで正司さんも一緒だったんですよ。呼びましょうか?」
広瀬さんはズボンのポケットから素早くスマホを取りだした。けれど、新野さんは軽く首を振る。
「いい。会いたくない」
あまりにもはっきりとした返事には嫌悪が存分に含まれていた。
「ま、この前会いましたし、これからいやになるくらい顔も合わせますもんね。しかも昔とはいえ、上司ですし」
新野さんの嫌悪が伝わっていないのか、広瀬さんはスマホをあっさりとポケットにしまい直した。
いくら、広瀬さんの言う通り昔の上司だから会いたくないという理由だとしても、拒絶するような言い方はいやな気分になる。
あの正司さんに会いたくないって。それに、なんで正司さんだけそんなに避けるのか。
「お話し中すみません。社長、よろしいですか?」
話をしていると、建物の中からヘルメットをかぶった若い男性が現れる。
首から下げたネームプレートには新野デザイン事務所のロゴマークが描かれていた。部下にはちゃんと“社長”と呼ばせているみたいだ。
「ああ、いま行く」
男性に返事をすると、壁のそばに置いていたヘルメットを手に取った。
「それじゃ、小夏……また来週」
瞳を細め、私に笑いかける。その表情は柔らかくて、正司さんを拒絶した新野さんとはかけ離れていた。
「お疲れさまです!」
大きな背中に向かって声をかけると、私と広瀬さんも正司さんが待つ車まで戻ることにした。