クールな社長の耽溺ジェラシー
「新野社長、ひと言ご挨拶をいただいてもよろしいでしょうか」
「はい」
広瀬さんの呼びかけに、同じ並びに座っていた新野社長がすっくと立ちあがる。外部とはいえ設計のポジションなので、閂建設側に座ってもらっていた。
新野社長がマイクを握ると、関係者がいっせいに注目する。多くの視線はさきほど並び立てられた実績への興味だけではなく、彼自身がもつ魅力に対しても向けられているようだった。
一八〇センチはあると思われる身長に均整のとれたスタイル……それだけでも街を歩けば十人中七人が振り返りそうなものなのに、さらに芯が強そうな黒目がちの瞳にすっと通った鼻筋、爽やかな黒の短髪はその整った顔立ちを強調していて、十人中十人が振り返るほどのかっこよさを作りあげていた。
白シャツに黒のジャケットを羽織っただけの服装もモデルみたいにきまっていて、自然と人の目を惹き寄せる。
そんな自身の魅力に気づいているのか、いないのか。新野社長はにこりともせずに背筋を伸ばすと、堂々とした態度でしゃべりはじめた。
「さきほどご紹介にあずかりました、新野デザイン事務所の新野夕です」
低く落ち着いた声色は、これが仕事の話でなくてもつい耳を傾けてしまうだろうと思うほど心地いい。ただ――。
「コンセプトにもありますように、光環境の整備、そして人の集まる街づくりを第一に考えて設計していきたいと思います」
“コンセプト”を聞いた瞬間、私は思わず変な力が入ってしまい、手元の資料をくしゃりと握った。
照明設計においてはよくあるコンセプト。なのに、まさかそのコンセプトには裏があったなんて――。
悶々としているあいだも、新野社長は余計な自慢やリップサービスもなく淡々と話していく。
「よろしくお願いします」
最後まで笑うことなく、スマートに頭を下げると腰を下ろした。
周りの関係者からは拍手にまじって「クールだね」や「いまどきのイケメンだな」など揶揄にもとれる褒め言葉が聞こえてきた。
たいていの人は好印象……とまでいかなくとも、悪い印象は抱かなかっただろう。
だけど、私はがっかりしていた。想像していた“照明デザイナー・新野夕”とまったく違う。
もちろん、勝手に想像していた私がいけないけれど――。