クールな社長の耽溺ジェラシー
三章:
「テーブルはこの配置でイスもあるし、資料もそろってる……と」
ブラインドを調節して太陽の明かりをちょうどいい角度で取り入れ、ホワイトボードを正面に持っていく。
今日はクライアントをまじえての打ち合わせなので、それに備えて会議室の準備をしていた。
「正司さん、打ち合わせに間に合うのかなー」
広瀬さんが腕時計を見て心配する。正司さんはほかの会議があって、準備には間に合わないけれど打ち合わせには参加できる予定だった。
「まぁ、まだ時間ありますし」
テーブルにペットボトルのお茶と紙コップを用意して壁の時計を見ると、打ち合わせがはじまるまでまだ余裕があった。
効きすぎていた冷房を調節し、席に座って資料でも読み込んでいようかと思っていると、自分の持ち物をテーブルに並べていた広瀬さんが「やべっ……」と苦々しくつぶやいた。
「自分の資料忘れた。こなっちゃん、俺ちょっと取ってくるわ」
「はい……って、行っちゃった」
みんなと同じ資料ではなく、説明するためにいろいろと書き込んでいる自分用の資料を忘れたらしい。
こちらの返事を聞く前に広瀬さんは廊下へ飛びだしていて、慌ただしい足音がフェードアウトしていく。
室内にひとりになると静かすぎて妙に落ち着かなくなる。打ち合わせ前で緊張しているせいかもしれない。
気を紛らわせようと、出入り口近くの席に座って資料をめくった。こうしていると絵本のページをめくるように、これからはじまる新しいことにわくわくしてくる。
設計図を手にしたら、どんな素敵なライティングが完成するだろうと頭の中で次々に映像が組み立てられていく。
あらためてこの仕事が好きなんだ……なんて実感していると背にしていたドアが開いた。