クールな社長の耽溺ジェラシー
「けど、ここで働いているときはそういうこと言うタイプじゃなかったんだけどね。変わったのかな。もしかして、こなっちゃんにだけ……」
「広瀬さんまで私をからかわないでください」
これ以上からかわれたら、意識してしまいそうだった。
ただでさえ、私も新野さんが冗談を言うタイプだと思っていなかったので、余計に勘違いしそうなのに。
でも……もしかしたらカップルを装ってくれていたのかもしれない。それなら、優しいなと見直してしまう。
どうなんだろうと打ち合わせ前にこんなことばかり考えていると、静かに開いたドアから正司さんが入ってきた。
「ご苦労さま。準備できなくて悪かったね」
「お疲れさまです。もうすぐクライアントもいらっしゃる予定です」
正司さんを目の前にすると、一瞬で頭が仕事モードに切り替わる。
やっぱり、新野さんのことを考えている場合じゃない。この人が目標で、私の一番だ。
背筋を伸ばして挨拶をすると、正司さんは穏やかに微笑んでくれた。
その笑みが少しだけ強張っているように感じたのは『プロジェクトから外してほしい』と言っていたところを見かけたせいだろうか。
「ああ、ありがとう。気合い入れていこうね」
「はい」
大きくうなずき返すと、正司さんはそばに座っていた新野さんを見た。
「……新野くんもお疲れさま」
「お疲れさまです。よろしくお願いします」
新野さんはいつもながらの考えが読めない表情で頭を下げていた。
ただの挨拶なのに、妙な緊張感が会議室を包む。
居心地の悪さは、クライアントが来るまでしばらく続いていた。