クールな社長の耽溺ジェラシー
「新野社長、俺のこと覚えてますよね? 広瀬です、一年しか一緒に仕事できませんでしたけど……」
「広瀬……?」
「いまより茶髪で、もうちょい元気で……新入社員だった広瀬です」
ふわりとセットした髪を摘み、新野社長に説明する。
「ああ……あのチャラいやつか。毎日夜遊びしてた……」
「チャラくないです! 毎日遊んでませんから! ……ちょっと調子に乗ってたことは認めますけど」
広瀬さんは居心地悪そうに首をすくめた。
ふたりのやり取りを見ていると、真顔で無愛想でしかなかった新野社長の印象が、意外と話しやすい人なのかも……と思えてくる。
ここで笑いでもすればもっと印象がよくなるけれど、新野社長はくすりともせず、かわりに心配そうに眉を歪めた。
「まだ、照明続けてるんだな?」
「え? はい、それは……まぁ、一応」
「そうか、よかったよ」
よかったと口にしたわりには安心した様子もなく、たずねられた広瀬さんも不思議そうに目を丸くしていて、質問の意図を掴めていないようだった。
もしかして、広瀬さんやめたかったのかな? それとも、やめたくなるほど過酷な現場だった……とか?
それよりも新野社長が広瀬さんの先輩ということは――。
「正司さんは新野社長の先輩だった……ということですよね?」
たずねた瞬間、新野社長と正司さんがピタリと固まり、室内の温度が五度くらい下がった気がした。触れてはいけないことだったのかもしれない。もう、遅いけれど。
「ああ、上司だな」
新野社長はそれだけ言うと、視線をそらすように足元を見ていた正司さんのほうを向いた。
「……お久しぶりです。まだいらっしゃったんですね」
そう声をかける視線は威圧的で、拒絶をはらんでいるようだった。広瀬さんに投げた言葉と似ているのに、ニュアンスがまったく違っていて冷たさがあった。
いかにも「辞めていると思っていた」と言わんばかりの口調は、そばで聞いていた私をいやな気分にさせた。
昔の先輩に対して、そんな言い方をするなんて失礼すぎる。もし、自分が言われたら怒るかもしれない。
心配になって正司さんを見つめると、彼は軽く顔をあげて口元に苦笑を浮かべた。
「うん、まぁ……僕も一応続いているよ」
曖昧な返事は、これ以上深く切り込まれないように無難に返しているみたいだった。
一応、なんかじゃないのに。正司さんはすごくいい照明を設計し続けているのに。
私のほうが悔しくなって、唇を噛みしめた。やっぱり、いい印象がもてない。