クールな社長の耽溺ジェラシー
四章:
現場から十分ほど走ると、車は高層マンションが建ち並ぶ界隈でひと際目立つマンションの地下駐車場へ入った。
「降りないのか?」
新野さんは番号が書かれた駐車スペースに車を停めると、まだ被ったままだった私の頭のタオルを取り、顔を覗き込んできた。
黒いガラスのような瞳に、壁についた明かりが映り込んでいる。
目が合うと、やっぱり体が熱くなって、また熱があると勘違いされそうだった。
「お、降りなくちゃいけませんか? このまま帰してほしいんですけど」
「風邪ひく。いまも顔が赤いのに」
遠慮がちに口にしたお願いはあっさりと切り捨てられた。……新野さんのせいなのに。
「夏ですよ? ひきませんって」
「夏だから風邪をひくヤツもいるだろ」
「バカって言いたいんですか!」
言い返すと、目尻にシワをつくって、クッと短く笑った。
……面白がられている。そんな場合じゃないのに。
帰らないと身の危険が……と思っているうちに、新野さんは運転席から降りてしまい、助手席のドアを開けた。
「とりあえず、シャワーと服。男の家に入るんだし、しかもさっき好きとか言ったばかりだな。警戒するのはわかるけど本当になにもしない。
そもそもいまなにかあったら仕事が気まずくなるだろ。俺だって仕事は失いたくない」
新野さん自身ではなく、その言葉は信用できた。私も、この仕事がなくなったら困る。生きていくために仕事が必要なら、この仕事をして生きていきたい。
「わかりました。じゃあ……お借りします」
車から降りると、新野さんからは「ああ」と短い言葉が返ってくる。
暑いと思っていたのに、濡れた肌が外の空気に触れると妙に寒く感じた。