クールな社長の耽溺ジェラシー
「お、お邪魔します……」
さきを歩く新野さんのあとについて、そろりそろりと足を進める。男性の部屋に入るのが初めてなら、こんなに高そうなマンションに入るのも初めてだ。
玄関は自分の部屋の三倍はあるし、廊下は二倍くらいの幅がある。図面にしたら、実家の一軒家より広そうだ。いや、絶対広い。
「新野さんのこと、社長っぽくないって思っていたんですけど……部屋は社長っぽいんですね」
こんな芸能人や成功者が住みそうなマンションは、飾り立てることに興味がなさそうな新野さんには似合わない気がした。
「ここの照明、俺が担当したんだ。オーナーとも気が合って……それで、なんとなく住むことになった。ま、広いから物が多く置けていいけどな」
「そういう理由ですか」
その理由は新野さんらしくて笑ってしまった。
新野さんらしくないと思っていた部屋も中へ入ると、主に足元を照らして明るすぎない廊下や部屋の間接照明などに彼らしさがふんだんに溢れていた。
そういえば、玄関に置かれていた照明も外国製のおしゃれなものだった。やっぱり、新野さんの家だ。
私には場違いなマンションなのに、どこか温かくて、居心地がいい。受け入れてくれる、という安心感がある。
ほかの部屋にも新野さんらしい照明があるのかと気になっていると「こっち」と、呼ばれてしまった。
「ここが風呂場。Tシャツとズボン置いておくから、これに着替えたらいい。下着は……」
「そこまで濡れてないからいいです!」
ここで女物の下着まで用意されたらさすがに引くし、全力で帰る。拒否すると、また小さく笑われた。なんだ、からかわれただけか。
「濡れた服は持って帰るだろ? あとでなんか入れるやつ渡すよ。俺はリビングにいるから、出たら来てくれ。そこの部屋な」
さっき通り過ぎたドアを指差す。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、新野さんは軽く瞳を細めて脱衣所から出ていった。