クールな社長の耽溺ジェラシー
「それで……高塔さん、だっけ? 新入社員?」
そう言って、新野社長は正司さんから私に向き直り、まっすぐに見下ろしてきた。
「いえ、これでも中途入社して三年目の二十七歳です」
若くといえばいいのか、幼くといえばいいのか。年相応に見てもらえないことには慣れていた。
身長が一五ニセンチと小さく、大きくクリッとした瞳はうらやましがられることもあるけれど、丸い輪郭とともに童顔を強調していて、あまり好きじゃない。加えて、元気が取り柄の性格。
少しでも大人っぽく見られたくて昔から髪は胸元くらいまで伸ばし、ほんのりとブラウンに染めているけれど、色気が出る気配はいまだにない。
「中途か。三年目なら知らなくて当然だな。かすってもいない」
子どもっぽさをからかわれたのかと思ったけれど、本当にただの疑問だったらしく、答えると納得したのか小さくうなずいていた。
「なんで、わざわざ元の会社をやめて閂に来たんだ?」
「それは……」
ちらりと正司さんを見る。目が合いそうになって、慌ててそらした。
「あ、憧れた建物があって……」
「へぇ、どん……」
「あっ! そ、それに前の会社と比べてここは大きくて、いろんな経験ができるので」
新野社長に「どんな建物か」と聞かれる気がしてわざと言葉を重ねた。
言えないわけではないけれど、あまり言いたくなかった。私が憧れた建物は正司さんが照明設計をしたものだったから。
入社したとき、本人に直接伝えたけれど、年月が経ってあらためて話すのは恥ずかしかった。
「閂建設にいると、建物の照明を設計するだけじゃなくて橋も道路も、公園も……今回みたいな機会だってあるので、この会社で働きたいと思ったんです」
その気持ちも本当だった。面接のときのように、少し背筋を伸ばして新野社長を見上げると、真顔がフッとゆるんだ。
「そうか、熱心なんだな」
涼しげな目元が柔らかく垂れ、ほころんだ口元から白い歯が覗く。
ずっと真顔しか拝んでいなかったのに、いきなり笑顔を向けてくるなんて反則だ。しかもその笑顔のまま、顔を覗き込むように近づいてくる。